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法律のお話⑰ 【誰が後見開始の申立てをするか】


■(事例)
 Xさん(80歳)は,長女であるYさんに預貯金通帳等を預け,お金の管理をしてもらいながら,特別養護老人ホームで生活をしています。
 しかし,施設の方から,利用料金が支払われていないと言われたため,Yさんに電話で「どうなっているのか?」と確認をしました。しかし,Yさんは「しっかり支払っているはず。施設の方の確認ミスでは」などと言い,全く話になりません。Xさんは一般的な年金よりも多いことから,施設の利用費が支払えないということはありえず,Yさんによる使い込みの可能性が高くなりました。
 Xさんは,Yさんから通帳を回収し,誰か第三者に金銭管理を任せたいと考えています。Xさんの認知症は相当程度進行しており,後見相当という医師の診断書もあります。
 このような場合,誰が後見開始の申立てをすることになるのでしょうか。なお,Xさんには他に親族がいません。
 
■(本文)
後見開始の申立てができるのは,①本人,②配偶者,③四親等内の親族,④未成年後見人,⑤未成年後見監督人,⑥保佐人,⑦保佐監督人,⑧補助人,⑨補助監督人,⑩検察官,とされています(民法7条)。
その他に,実は市町村申立て,というものがあります。これは,簡単にいうと,⑪65歳以上の者でその福祉を図るために特に必要があるとき,⑫精神障害者であり,その福祉を図るため特に必要があるときに,市長村長が申立てをすることができる,とするものです。

このうち,①,⑩,⑪,⑫以外については,本件では存在しません。また,⑩については,認められたケースは稀で,現実的ではないことがほとんどです。
そうすると,後は①か⑪,⑫となります。
まず,⑪か⑫については,行政に対して誰かが状況の報告をして,市長村長に最終的な決断をしてもらう必要があり,簡単ではありません。このケースが多いのは,高齢者虐待や精神障害者の虐待等があった際に,行政が介入し,被虐待者と虐待者(多くは親族である場合)とを金銭的に分離する必要が高度に認められた場合に,市長村長が後見開始の申立てをするというケースです。
ただ,その場合でも,数回のケース会議を繰り返し,被虐待者に親族がおらず,その他に虐待解消のために適切な手段がないという認定されてはじめて申立てとなるので,時間がかかり,複雑です。

そこで,①本人による申立て,という点を検討します。
この点に関しては,医師により後見相当という診断がなされている本件では,事理弁識能力がないのだから,申立てもできないのではないか,という疑問が当然にあります。
しかし,事理弁識能力というのは,常に全く喪失しまっているような場合もあれば,時と場合によって,物事を理解し判断できる(ある程度ですが)場合もあります。
後者の場合,成年後見の申立ての意味をある程度理解しているのであれば,本人による成年後見の申立てが可能です。ただ,家庭裁判所としては,申立て時に申立ての意味を理解していたかどうかは,主治医等の意見をもとに,判断能力を判定するテストを行うなどして,慎重に検討することになります。

※成年後見制度は,その大きな役割として財産管理という点があり,財産管理ができるか否か,というところを重視します。そのため,日常会話や物事の意味についてある程度理解ができる方でも(この場合は申立てが可能),財産の管理については全くできないという方もいて,この場合には後見相当となります。
 すなわち,後見の申立てが可能かどうか着目するポイントと,財産管理が可能かどうか着目するポイントは微妙に異なるため,後見相当であっても本人申立てをすることができるケースはあるということになります。
                                                       以上

2014年8月27日 9:23 - カテゴリー: 法律のお話し
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