アーカイブ(2014年1月)

法律のお話し③【錯誤】

【錯誤】

Q 金融機関Aは,B社が大幅な債務超過にあり破たんすることが明らかであることを知りながら,連帯保証人をつけることを条件に融資を行い,また連帯保証人との間で保証契約を締結しましたが,その際連帯保証人CはB社が破たん状態にあることを知りませんでした。
その後,AはBから弁済を受けられなくなったため,Cに対して保証債務の履行を請求したところ,Cは,保証契約締結時においてB社が破たん状態にあることを知らなかったのだから保証契約は無効であると主張し支払いに応じませんでした。この場合、銀行は支払いを受けることができるでしょうか。

A できない可能性があります。
主債務者が破たん状態にないことは,連帯保証人が保証契約を行うことの動機に該当すると考えられます。動機に錯誤がある場合,その動機が相手方に明示的又は黙示的に表示されていれば保証契約は民法95条により錯誤無効となります。
融資の時点で破たん状態にある債務者のために保証人になろうとする者は通常存在しないというべきだから,保証契約の時点で主債務者が破たん状態にないことは保証しようとする者の動機として一般に黙示的に表示されているものと解されるとした裁判例(東京高判H17・8・10)によれば,本件でも錯誤無効の主張が認められる可能性があります。
以上

2014年1月28日 10:35 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し②【成年後見制度の概要】

【成年後見制度の概要】

■ X(70歳)の長女であるA(東京在住)は,札幌で一人暮らしをしているX宅を久しぶりに訪問した際,Xの物忘れが相当進んでいて,自分にどのような収入があるか,どうやって管理をしているか,全く把握できていないことを知りました。Aが自分の子であることすら分かっていない様子です。
また,疎遠であったXの長男B(40歳)が,Xの近所に住んでいて,頻繁にX宅を訪れ,通帳を持ち出していることをXへの聴取によって知りました。
Aとしては,Bに警告をしたものの,Bは「親の金を管理して何が悪い。認知症になってしまった親のために財産管理を手伝っているだけだし,面倒をみているのだからある程度小遣いをもらうのは当然だ」などといって全く話合いになりません。
何とかBに代わってXの財産管理をしたいが,東京に家庭があり,そうもいきません。どうしたらいいでしょうか。

■ 成年後見制度の利用を進めるべきです。成年後見制度とは,精神上の障害により判断能力が不十分なため意思決定が困難な成年者を,法律面,生活面で支援する制度です。
大きく分けて,法定後見制度と任意後見制度があります。
前者は,既に判断能力が不十分になった段階で家庭裁判所が援助者を選任する,裁判所による決定になります。
後者は,本人に判断能力がある段階で,任意後見契約という契約を交わします。具体的には,将来,自分の判断能力が不十分となった際に援助してもらう後見人と,援助してもらう具体的な内容を契約しておき,実際に判断能力が不十分になり,家庭裁判所による任意後見監督人の選任をきっかけに効力が生じることになります。

本件では,既にXの判断能力は不十分となっていると思われるので,任意後見制度は使えず,法定後見制度を利用することになります。

法定後見制度にも,本人の判断能力の程度に応じて3種類あり,
① 後見人 本人が判断能力を欠く状態にある場合
② 保佐人 本人の判断能力が著しく不十分な場合
③ 補助人 本人の判断能力が不十分な場合
に分かれます。
①ですと,後見人が家庭裁判所により選任され,その後見人が本人の財産管理をすべて行うことになります(日用品の購入くらいはできます)。本人が勝手に財産処分等をした場合には,取消すことができます。
②ですと,本人が法律で定められた法律行為(借入や贈与や不動産の改修等)をするためには,保佐人の同意が必要になり,それがない場合には取消すことができることになります。また,本人に代わって保佐人に特定の法律行為をするための権利(代理権)を与えることも出来ます。
③ですと,法律で定められた法律行為のうち,同意がなければできない行為を審判によって定めることができます。審判で定められなかった行為は,本人は自由にできます。その他,②同様代理権を与えることも出来ます。

本件では,まず精神科等,判断能力について診断のできる医師に診断をしてもらい,果たして①~③のどれに当たり得るかを調べることになります。
既に相当程度認知症が進行しており,Aの認知もできていないことから,既に判断能力は失われており,①の後見の申立をすることが予想されます。
その後,後見人が選任されれば,Xの全ての財産の管理はその後見人がすることになるため,Bから通帳等の管理権を奪うことができ,Xの財産は保全されます。                                                             以上

2014年1月22日 9:17 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し① 【 携帯電話と残業代 】

【 携帯電話と残業代 】

■ 従業員に会社の携帯電話を持たせて,休日などの就業時間外にかかってくる電話に対応させている場合,この従業員に対して,就  業時間外の携帯電話を持たせている時間についても,時間外手当(残業代)を支払わなければな らないのでしょうか。

■ この問題では,就業時間外の携帯電話を持たせている時間が,「労働時間」に該当するかが問題となります。
 「労働時間」というのは,労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間のことをいいます。
  そのため,従業員に「就業時間外の携帯電話を持たせている時間」が,労働から解放されておらず,使用者の指 揮命令下におかれているといえるような場合は,「労働時間」に該当し,時間外手当を支払う必要があるということになります。

  従って,単に携帯電話を持たせているだけで,実際に電話がかかってくることが皆無であれば,労働者は場所的にも拘束されておらず,何か具体的な対応をする必要もないことから「就業時間外の携帯電話を持たせている時間」は,労働から解放されており,使用者の指揮命令下におかれていないと評価でき,「労働時間」には該当せず,時間外手当を支払う必要はないということになる可能性が高いと思います。

     しかし,実際にある程度電話がかかってきて,その電話に対してある程度対応が必要にるような場合であれば,電話がかかってくる頻度,電話がかかってきた際の具体的な対応状況等にもよりますが,労働者は労働から解放されておらず,使用者の指揮命令下におかれていると評価され,「労働時間」に該当し,時間外手当を支払わなければならないという可能性は否定できません。

  このようなことから,従業員に携帯電話を持たせて就業時間外の電話対応をしてもらう必要性があまりないような場合は,従業員時間外の電話対応をしなくてもよいということを明らかにしておいた方がよいと思います。
  反対に就業時間外の電話対応をしてもらう具体的な必要性がある場合についても,電話対応が必要な時間帯,かかってきた電話に対する具体的な対応方法など,会社が従業員に求める対応について具体的に規定したり,具体的に指示をしたりしておいた方がよいように思います。そして,それにより従業員にかかる負担の程度に応じた手当等の支払いを行うという態勢も整えておいた方がよいと思います。         以上

2014年1月17日 10:02 - カテゴリー: 法律のお話し
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