アーカイブ カテゴリ(法律のお話し)

法律のお話⑱【断定的判断の提供】

Q 競馬攻略法を提供している会社が,同社に電話すれば100%確実に当たる情報を提供する,などといった広告を載せた雑誌を販売し,その雑誌を購入して電話をしてきた顧客に同趣旨の説明をしたところ,この情報はあてにならないと言われ,契約の取り消しを求められた。

A 取り消される可能性が高い。
消費者契約法4条1項が定める断定的判断による契約の取り消しは,消費者が得る利益について将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供した場合を要件としているところ,本件の情報提供会社は馬券の当たりはずれといった不確実な事項について100%確実に当たるとの情報を提供しているため,契約が取り消される可能性が高い。
以上

2014年9月11日 11:28 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話⑰ 【誰が後見開始の申立てをするか】

■(事例)
 Xさん(80歳)は,長女であるYさんに預貯金通帳等を預け,お金の管理をしてもらいながら,特別養護老人ホームで生活をしています。
 しかし,施設の方から,利用料金が支払われていないと言われたため,Yさんに電話で「どうなっているのか?」と確認をしました。しかし,Yさんは「しっかり支払っているはず。施設の方の確認ミスでは」などと言い,全く話になりません。Xさんは一般的な年金よりも多いことから,施設の利用費が支払えないということはありえず,Yさんによる使い込みの可能性が高くなりました。
 Xさんは,Yさんから通帳を回収し,誰か第三者に金銭管理を任せたいと考えています。Xさんの認知症は相当程度進行しており,後見相当という医師の診断書もあります。
 このような場合,誰が後見開始の申立てをすることになるのでしょうか。なお,Xさんには他に親族がいません。
 
■(本文)
後見開始の申立てができるのは,①本人,②配偶者,③四親等内の親族,④未成年後見人,⑤未成年後見監督人,⑥保佐人,⑦保佐監督人,⑧補助人,⑨補助監督人,⑩検察官,とされています(民法7条)。
その他に,実は市町村申立て,というものがあります。これは,簡単にいうと,⑪65歳以上の者でその福祉を図るために特に必要があるとき,⑫精神障害者であり,その福祉を図るため特に必要があるときに,市長村長が申立てをすることができる,とするものです。

このうち,①,⑩,⑪,⑫以外については,本件では存在しません。また,⑩については,認められたケースは稀で,現実的ではないことがほとんどです。
そうすると,後は①か⑪,⑫となります。
まず,⑪か⑫については,行政に対して誰かが状況の報告をして,市長村長に最終的な決断をしてもらう必要があり,簡単ではありません。このケースが多いのは,高齢者虐待や精神障害者の虐待等があった際に,行政が介入し,被虐待者と虐待者(多くは親族である場合)とを金銭的に分離する必要が高度に認められた場合に,市長村長が後見開始の申立てをするというケースです。
ただ,その場合でも,数回のケース会議を繰り返し,被虐待者に親族がおらず,その他に虐待解消のために適切な手段がないという認定されてはじめて申立てとなるので,時間がかかり,複雑です。

そこで,①本人による申立て,という点を検討します。
この点に関しては,医師により後見相当という診断がなされている本件では,事理弁識能力がないのだから,申立てもできないのではないか,という疑問が当然にあります。
しかし,事理弁識能力というのは,常に全く喪失しまっているような場合もあれば,時と場合によって,物事を理解し判断できる(ある程度ですが)場合もあります。
後者の場合,成年後見の申立ての意味をある程度理解しているのであれば,本人による成年後見の申立てが可能です。ただ,家庭裁判所としては,申立て時に申立ての意味を理解していたかどうかは,主治医等の意見をもとに,判断能力を判定するテストを行うなどして,慎重に検討することになります。

※成年後見制度は,その大きな役割として財産管理という点があり,財産管理ができるか否か,というところを重視します。そのため,日常会話や物事の意味についてある程度理解ができる方でも(この場合は申立てが可能),財産の管理については全くできないという方もいて,この場合には後見相当となります。
 すなわち,後見の申立てが可能かどうか着目するポイントと,財産管理が可能かどうか着目するポイントは微妙に異なるため,後見相当であっても本人申立てをすることができるケースはあるということになります。
                                                       以上

2014年8月27日 9:23 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話⑯【賃金を支払いすぎた場合】

■(事例)
会社が,従業員の残業代の計算について計算ミスをして,残業手当を支払い過ぎてしまったことが判明した場合に,支払い過ぎた残業手当を従業員の翌月の給与から差し引くことができるか。

■(本文)
労基法24条1項本文において,「賃金は,通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない。」とされており,賃金の「全額払の原則」などが規定されています。
したがって,会社は従業員に対して,給与の一部ないし全額を控除して支払うことは原則として許されていません。
もっとも,労基法24条1項ただし書きには,例外的に控除が許される場合が規定されており,法令に別段の定めがある場合や一定の要件を備えた労使協定がある場合には,給与の一部を控除して支払うことができます。
たとえば,給与所得の源泉徴収,社会保険料の控除は法令で認められており,社宅の家賃の控除などについても要件を備えた労使協定があれば認められます。
したがって,本件の場合も,要件を備えた労使協定があれば,従業員の翌月の給与から差し引くことは許されます。

では,要件を備えた労使協定がない場合は,支払い過ぎた残業手当を従業員の翌月の給与から差し引くことが一切許されないかというとそういうわけではありません。
「過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期に」「あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか,その額が多額にわたらないとか,要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合」であれば,許されることになります(最判昭和44年12月18日)。

本件の場合も,従業員に支払い過ぎの残業手当を差し引くことを予告し,その差し引く金額が多額でないのであれば,支払い過ぎた残業手当を従業員の翌月の給与から差し引くことも許されるということになります。

以上

2014年7月28日 11:03 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話⑮【意思能力・行為能力】

2 意思能力・行為能力

Q 布団等の販売会社が商品を販売する際,買主は80歳で物事に対する理解力が乏しい状態で一人で自宅に居たところ,同社の販売員から示された売買契約書がどのような目的で使用されるかを十分に理解しないまま,同販売員の指示に従い,売買契約書に署名押印しました。その後同社から売買代金の支払いを請求したところ,買主は内容を理解しないまま契約を締結したから契約は無効若しくは取り消しうると述べて支払いに応じないが,同社は支払いを受けることができるでしょうか。

A できません。買主が契約時に自己の行為の結果を判断する能力すなわち意思能力に欠ける場合は契約は無効となります。また,買主が成年被後見人,被保佐人,被補助人である場合には,契約は取り消しうるものになります。

2014年7月14日 10:07 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し⑭成年後見人・保佐人・補助人になるのは

■(事例)
成年後見人や保佐人,補助人になることができるのは,どのような人でしょうか。

■(本文)
成年後見人になるには,特に資格が必要なわけではないので,法が規定している欠格事由に該当する場合を除いて,誰でもなることができます。
欠格事由としては,①未成年者,②家庭裁判所で罷免をされた法定代理人,保佐人,補助人,③破産者,④被後見人(本人です)に対して訴訟をし,又はした者,並びにその配偶者及び直系血族,⑤行方の知れない者,です(民法847条)。
これ以外の者であれば,自然人でも法人でも,なることができます。

ただ,あくまで選任するのは家庭裁判所になる点に注意が必要です。
そのため,例えば,本人に色々な法的なトラブルがあり,後見人が就任した場合にそれらのトラブルの処理もしなければならないような場合には,法律の専門家がなるべきですから,仮に親族が成年後見人になりたいという意思を家庭裁判所に示したとしても,弁護士等が選ばれることもあります(そして,この選任に対しては実は異議を出すことができません。)。
また,数名で後見業務を行った方が適切であるという場合には,数名の成年後見人(保佐人,補助人)が選任されることもあります。             以上

2014年6月16日 17:31 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話⑬ 【会社が従業員の給与を支払えない場合】

■(事例)
今月中に回収予定だった売掛金が回収できず,資金繰りに困り,従業員に対する今月分の給与の支払いができないことから,給与の支払いを先延ばししようと考えているが,これは可能でしょうか。

■(本文)

労基法24条1項本文において,「賃金は,通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない。」とされており,賃金の「全額払の原則」などが規定されています。

また,労基法24条2項本文において,「賃金は,毎月1回以上,一定の期日を定めて支払わなければならない。」として,「毎月1回以上一定期日払の原則」が規定されています。
そして,その例外として,臨時に支払われる賃金,賞与の他,1カ月を超える期間についての精勤手当,勤続手当および能率手当とされている(労基法24条2項ただし書き,労基規則8条)。

これらの規定は,労働者の定期的な収入を確保し,その生活基盤の安定を確保しようとすることを目的としています。

本件の場合,労基法24条2項但し書き規定の「毎月1回以上一定期日払の原則」の例外のどれにも該当しないことから,従業員の給与の支払いを先延ばしすることは許されていません。
それにもかかわらず,従業員の給与の支払いを行わなかった場合,30万円以下の罰金に処せられることが規定されていますが(労基法120条1号),会社の経営状態などから不可抗力ともいえるような場合もあり,全ての給与の支払いの先延ばしが処罰されているというわけではありません。
                                     以上

2014年5月28日 11:44 - カテゴリー: 法律のお話し

法律相談のお話⑫【補助制度について】

【補助制度について】

■仮に,前回の「保佐制度について」のYの場合に,医師に診断書を記載してもらった際に「補助相当」とされたため,Ⅹが補助開始の審判を申し立てたとします。そして,その結果補助開始の審判が出て,補助人としてⅩが選任された場合,保佐の場合とどのように異なるでしょうか。

 

■補助は,精神上の障害により事理弁識能力が不十分な場合に認められる,法定後見制度です。保佐の場合には,「著しく」不十分である必要があり,補助は保佐よりも判断能力がある状態ということになります。

まず異なるのは,申立てにあたって,本人以外からの申立ての場合には,本人の同意が必要になる点です。そのため,本件でもYの同意が必要になります。

また,保佐の場合には,法律上当然に保佐人に付与される権限が具体的に規定されています(一定の重要な法律行為についての同意権,同意がない場合の取消権)。ところが,補助の場合には,そのような規定がないため,審判の申し立てに際し,同意権を付与する行為,代理権を付与する行為について,具体的に請求をしなければなりません。なお,同意権を付与する行為については,法律に規定されている特定の法律行為に限定されますが,代理権を付与する行為についてはそのような制限はありません。

そのため,本件では,単に補助開始の審判を申し立てるだけではなく,「不動産その他重要な財産の取引について,補助人に同意権を与えてください」と請求しなければなりません。もちろん,その他の法律行為に同意権付与の請求をすることも出来ますし,代理権の付与を請求することもできます。

その結果,裁判所がⅩに対し,上記行為についての同意権を付与した場合には,仮にYがⅩの同意なく投資用不動産を購入した場合には,取消権を行使することができます。

以上のように,補助の場合,保佐以上に本人の自己決定権を尊重します。

これは,補助の制度がターゲットにしているのが,ほとんど判断能力については問題がないが,取引の複雑さ等によって援助が必要になる者であり,補助制度が旧法下では行為能力については問題ないとされていた者をあえて積極的に支援・保護しようという趣旨に基づいていることに理由があります。

そのため,保佐が開始した場合には,取締役という立場を喪失したり,いくつかの専門的な職業の資格を喪失する等,欠格条項の対象になるのに対して,補助の場合には欠格条項の対象にはなりません。

以上

 

2014年5月19日 8:59 - カテゴリー: 法律のお話し

法律相談のお話⑪【意思表示の合致による契約の成立】

1 意思表示の合致による契約の成立

Q 教育セット等の販売会社が,商品を販売する際に,商品の種類・個数・代金等が書かれていない契約書に買主が署名押印をし,その後会社側で商品の種類・個数・代金等の事項を記入して売買契約書を作成して売買代金を請求したところ,買主は同商品を購入したつもりはなく,同商品の売買契約は成立していないなどと述べて支払いに応じないが,同社は支払いを受けることができるでしょうか。

A できません。契約の成立要件として申込みの意思表示と承諾の意思表示の合致が必要であるところ,本件では商品の種類・個数・代金等を特定した売買契約の申込みの意思表示が存在せず,買主と同社との間で目的物と代金を特定した売買契約の申込みの意思表示を行ったと認められる特段の事情が存在しない限り,契約の成立要件を欠き,売買契約は成立しないからです。

2014年5月12日 9:17 - カテゴリー: 法律のお話し

法律相談のお話し⑩【経費の水増し請求】

■経費の水増し請求

■従業員が,会社に対して経費を水増しして請求していたことが発覚した場合の問題について

従業員が経費を水増しして請求していた場合,
民事上,従業員は,会社に対して損害賠償責任を負担します。
また,懲戒処分の対象にもなります。
さらには,刑事上も詐欺罪や業務上横領罪にもなってしまいます。

従業員が経費を水増しして請求している疑いがある場合は,
まず,会社として調査を行い,その従業員からも事情の説明を受けることが必要になります。

その上で,水増し請求の事実が確認できた場合,会社としてはまずはその従業員に水増し額の返還を求めていくことになると思います。
水増し請求が,悪質な場合には懲戒解雇も可能ですが,そこまで悪質ではない場合には解雇以外の懲戒処分のほうが妥当な場合が多いと思われます。
なお,刑事事件として告訴することについては,会社内部における問題でもあることですし,よほど悪質な場合でない限り避けた方がよいのではないかと思います。
以上

 

2014年4月23日 11:52 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し⑨【詐欺】

詐欺

Q 中古車販売会社が走行キロを5万と広告して車を売りに出していたところ,その広告を見て車を購入した顧客から走行キロが7万5千であったとして契約の取り消しを求められたが,同社は走行キロが広告と異なることを認識していなかった場合,契約の取り消しは認められるか。

A 取り消される可能性が高い。

消費者契約法4条1項が定める不実告知による契約の取り消しは,民法上の詐欺取消しと異なり,事業者において不実告知をしていたことの認識が必要であるとはされていないため,本件の中古車販売会社が事実と異なる走行キロを告知していたことを知らなかったとしても,契約の取り消しは認められる可能性が高い。

2014年4月17日 9:22 - カテゴリー: 法律のお話し
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