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法律のお話し⑧【保佐制度について】

■保佐制度について

■(事例)

 Ⅹは,親戚のYのマンションを訪問したところ,怪しい業者の名前の投資用マンション購入についてや,海外の高額な絵画購入についてのパンフレットがあり,Yのマンションに怪しい業者が出入りしていることを知りました。そのことをYに確認すると,内容はよく分からないが,とにかく儲かるということで,購入を考えているということです。

 じっくり話を聞いた印象として,Yは日常生活が送れないほどに金銭管理ができないわけではありませんが,高齢になってきたこともあって,物忘れが進んでおり,金銭の価値等について十分に理解ができない状況のようです。

そこで,四親等内の親族であるⅩは,法定後見制度の利用を検討しています。

 Yは日用品を買う等の,簡単な行為は一人でできることから,後見相当ではないと思われますが,このような場合にはどのような後見制度を利用することになるのでしょうか。そして,その制度を利用した場合,Yがマンションや絵画等を購入してしまった場合に,対応できるのでしょうか。

■(本文)

まず,本件では,消費者契約法などの法律による,契約の取消等の手段については検討しません。そもそも,このような手段をとる場合には,取消事由が簡単には認められるものではありませんので,Yの保護としては不十分になります。

精神上の障害により,事理を弁識する能力が著しく不十分である場合には,保佐という後見制度が利用できます。本件のⅩのような方の場合には,保佐を利用することが考えられます。

具体的には,四親等内の親族であるⅩは,保佐開始の審判を家庭裁判所に申し立てることになります。

その際,申立書の他に,色々な書類が必要になるのですが,医師による診断書(成年後見用のものがあります。)も必要になります。最終的な判断は裁判所によってなされるのですが,この最初に提出する診断書の記載に,「保佐相当」と書かれているかどうかが,非常に重要になります。

そのため,保佐に限らず後見,補助という法定後見制度を利用する場合には,医師にしっかりと診断書を書いてもらうことが重要になります。

最終的に保佐開始の審判が出た場合には,保佐人が選任されます(親族である場合や,弁護士や司法書士等の専門家がなる場合もあり,申立の段階で希望は出せますが,最終的な決定権限は裁判所にあります。)。

保佐が開始されると,法律に定められた重要な行為(借入れや保証,不動産等の財産の売買等)について,Yは保佐人の同意がなければすることができなくなります。同意がない場合には,保佐人は取り消すことができます。

また,裁判所は,それとは別に,特定の法律行為をすることについての代理権を保佐人に与えることも出来ます。

本件で,Ⅹが保佐人に選任されたとします。その場合,仮にYがⅩの同意なく投資用マンションを購入してしまったとしても,「不動産等の財産の売買」に該当しますので,Ⅹは取り消すことができます。絵画を購入してしまった場合には,法律上は「重要な財産についての売買」となっていることから,絵画が「重要な財産」といえるか,解釈の余地があります。数千万円の高額な絵画ということであれば,「重要な財産」と言えるでしょうから,Ⅹは取り消すことができるでしょう。

以上

2014年3月17日 9:51 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し⑦【社員が不倫している場合】

■従業員の不倫

■妻子ある男性従業員が,社内の女性従業員と不倫関係にある場合の問題について

 不倫とはいえ,男女間の問題は私生活上の問題であり,原則として会社が関与すべき問題ではありません。
 しかし,それが会社の風紀,秩序を乱し,会社の業務の正常な運営に悪影響を及ぼすような場合は,懲戒処分もやむを得ないときも出てくると思われます。ただし,どのような場合に懲戒処分が可能か,特に懲戒解雇が適法な場合はどのような場合かの判断は,個別の事案ごとに様々な要素を総合的に考慮して行われるものですので,どのような場合に処分可能かについての一般的な基準を示すことは困難な面があります。
 とはいえ,不倫が新たなトラブルを引き起こしたり,会社のイメージダウンになるなど,会社がこれを放置することにもリスクがともなうことから,会社としても何らかの対応が必要になることもあると思われます。
 そこで,会社としては事実関係を確認した上で,事実関係が認められた場合,まずは当事者に口頭で注意を行い,当事者における問題解決を促すことが考えられます。そして,口頭で注意を行うだけでは改善がみられない場合は,当事者の一方又は双方の配置転換を行い,少なくとも業務中に当事者が顔を合わすことがないようにすることも考えられます。
 口頭注意を行っても,配置転換を行っても,不倫関係が継続し,業務に支障が出ているような場合に初めて,その支障の程度によって懲戒処分を検討するというのがよいように思います。そして,懲戒処分を行う場合でも,比較的軽微な懲戒処分から段階的に行い,懲戒解雇は最終手段と考えておくべきです。
 会社が懲戒解雇を検討している場合でも,まずは自主的に退職するように促すことが現実的と思われます。
 なお,不倫をしている従業員自身は,会社との関係以外でも様々な不利益を被る可能性があるという点についてもご留意ください。

 以上

2014年3月10日 10:33 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し⑥【心裡留保】

心裡留保
Q 自動車販売会社と提携している信販会社が,自動車を購入したAとの間でクレジット契約書を取り交わした。後日Aに電話で同契約の確認をしたところ,Aは同契約について認めるような回答を述べた。しかし,後日,クレジット契約についてはAの友人BがAの名義を冒用して締結していたこと,及びAはBに車の名義人になることは頼まれていたがクレジット契約の借主になるつもりはなかったことが判明した。
信販会社はクレジット契約に基づきAに対し借入金の支払いを請求したが,Aはクレジット契約をしたつもりはなくクレジット契約は無効であると主張して支払いに応じないが信販会社は支払いを受けることができるか。

A できない可能性がある。
Aはクレジット契約の借主となる意思はなかったと述べるが,後日信販会社から契約締結意思の確認を受けてAはその意思がある旨の回答をしていることからすると,この段階でAのクレジット会社に対するクレジット契約締結の申込みがあったものと考えることができ,そうであるなら同契約は成立したと認められる可能性がある。
もっとも,同契約が成立していたとしても,Aには同契約の借主になる意思はなかったのであり,Aは真意でないことを知りながら同契約締結の申込みをしたことになるため,当該意思表示は心裡留保(民法93条)に該当する可能性がある。
心裡留保に該当すると認められた場合,相手方である信販会社が真意でないことを知り,又は知ることができた場合には,民法93条但書により同契約が無効となる可能性がある。
                                                       以上

2014年2月25日 14:04 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し⑤【任意後見制度について】

法律のお話し⑤【任意後見制度について】

■ X(60歳)は,現在自己所有の家に一人で住んでいます。特に認知症になっているわけではなく,判断能力に問題はありませんが,少し物忘れが気になってきており,足腰も弱ってきていることから,将来判断能力が不十分になった際は,自宅を売却して,そのお金を利用して老人ホーム等で面倒を見てもらいながら生きていきたいという希望を持っています。
このようなXのために,何かできることはないでしょうか。

■ 任意後見制度の利用を検討すべきです。
 簡単な内容は,前回の「成年後見制度の概要」に記載してあるとおりです。
 本件では,将来Xの判断能力が不十分になった場合には,現在住んでいる不動産を売却し,そのお金を使って老人ホーム等で生活をする,という内容を,予め契約をしておくことになります(任意後見契約,といいます。)。
具体的な流れを説明しますと,
①まず,具体的な契約内容を,公証役場にて任意後見契約の公正証書を作成します(登記もされます。)。
②その後,本人の判断能力が不十分になった段階で,本人や配偶者,4新親等内の親族又は任意後見契約受任者(本人と契約をした者です。)が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。
③任意後見監督人が選任された段階で,任意後見契約の効力が生じ,任意後見受任者が任意後見人となり,任意後見監督人の監督の下,本人と契約をした内容で,後見事務を行うことになります。
なお,任意後見監督人は,任意後見人の事務を監督し,家庭裁判所に定期的に報告をすることになります。

本件では,「Xの自宅を売却して,そのお金を利用して老人ホームで生活をする」などというのが任意後見契約の内容になりますので,任意後見人は,その契約内容に従って,実際にXの自宅を売却して,そのお金をつかって,Xを老人ホームに入所させることになります。こうして,Xの当初の希望が実現することになります。

以上

2014年2月19日 17:46 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し④【取締役と会社との取引】

■(事例)
会社が,取締役から取締役所有のビルを譲り受けたが,その際,会社が時価よりもかなり高額な価格でそのビルを買い受けていた場合の問題点について

■(本文)
このような取引は,利益相反取引に該当することになります(会356条1項2号3号)。
利益相反取引には,取締役が会社から財産を譲り受けたり,金銭を借りたりする場合などの直接取引(会356条1項2号)や会社が取締役の債務を保証する場合などの間接取引(会35条1項3号)があります。
このような利益相反取引については,取締役が会社の利益を犠牲にして取締役自身の利益を図るおそれがあるため,株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の承認が必要とされています(会356条1項2号3号,365条)。

株主総会(取締役会)の承認がある場合,当該利益相反取引は有効となります。もっとも,会社に損害が発生している場合,取締役は,任務懈怠責任として損害賠償責任を負うことになります(会423条1項,3項)。
株主総会(取締役会)の承認がない場合,当該利益相反取引は,原則として無効となります(会社は,利益相反取引をした取締役に対しては当然に無効を主張できますが,第三者に無効を主張するには,当該取引が利益相反取引にあたり,株主総会(取締役会)の承認がなかったことについて,第三者が悪意であったことを立証する必要があります)。
そして,会社に損害が発生している場合,取締役は,任務懈怠責任として損害賠償責任を負うことになります(会423条1項,3項)。

以上から,事例のケースでは,
ビルの売買の効力については,株主総会(取締役会)の承認があれば有効,承認がなければ原則として無効となります。
そして,会社に損害が発生している場合,取締役は,損害賠償責任を負担することになります。

                                                  以上

2014年2月13日 9:42 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し③【錯誤】

【錯誤】

Q 金融機関Aは,B社が大幅な債務超過にあり破たんすることが明らかであることを知りながら,連帯保証人をつけることを条件に融資を行い,また連帯保証人との間で保証契約を締結しましたが,その際連帯保証人CはB社が破たん状態にあることを知りませんでした。
その後,AはBから弁済を受けられなくなったため,Cに対して保証債務の履行を請求したところ,Cは,保証契約締結時においてB社が破たん状態にあることを知らなかったのだから保証契約は無効であると主張し支払いに応じませんでした。この場合、銀行は支払いを受けることができるでしょうか。

A できない可能性があります。
主債務者が破たん状態にないことは,連帯保証人が保証契約を行うことの動機に該当すると考えられます。動機に錯誤がある場合,その動機が相手方に明示的又は黙示的に表示されていれば保証契約は民法95条により錯誤無効となります。
融資の時点で破たん状態にある債務者のために保証人になろうとする者は通常存在しないというべきだから,保証契約の時点で主債務者が破たん状態にないことは保証しようとする者の動機として一般に黙示的に表示されているものと解されるとした裁判例(東京高判H17・8・10)によれば,本件でも錯誤無効の主張が認められる可能性があります。
以上

2014年1月28日 10:35 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し②【成年後見制度の概要】

【成年後見制度の概要】

■ X(70歳)の長女であるA(東京在住)は,札幌で一人暮らしをしているX宅を久しぶりに訪問した際,Xの物忘れが相当進んでいて,自分にどのような収入があるか,どうやって管理をしているか,全く把握できていないことを知りました。Aが自分の子であることすら分かっていない様子です。
また,疎遠であったXの長男B(40歳)が,Xの近所に住んでいて,頻繁にX宅を訪れ,通帳を持ち出していることをXへの聴取によって知りました。
Aとしては,Bに警告をしたものの,Bは「親の金を管理して何が悪い。認知症になってしまった親のために財産管理を手伝っているだけだし,面倒をみているのだからある程度小遣いをもらうのは当然だ」などといって全く話合いになりません。
何とかBに代わってXの財産管理をしたいが,東京に家庭があり,そうもいきません。どうしたらいいでしょうか。

■ 成年後見制度の利用を進めるべきです。成年後見制度とは,精神上の障害により判断能力が不十分なため意思決定が困難な成年者を,法律面,生活面で支援する制度です。
大きく分けて,法定後見制度と任意後見制度があります。
前者は,既に判断能力が不十分になった段階で家庭裁判所が援助者を選任する,裁判所による決定になります。
後者は,本人に判断能力がある段階で,任意後見契約という契約を交わします。具体的には,将来,自分の判断能力が不十分となった際に援助してもらう後見人と,援助してもらう具体的な内容を契約しておき,実際に判断能力が不十分になり,家庭裁判所による任意後見監督人の選任をきっかけに効力が生じることになります。

本件では,既にXの判断能力は不十分となっていると思われるので,任意後見制度は使えず,法定後見制度を利用することになります。

法定後見制度にも,本人の判断能力の程度に応じて3種類あり,
① 後見人 本人が判断能力を欠く状態にある場合
② 保佐人 本人の判断能力が著しく不十分な場合
③ 補助人 本人の判断能力が不十分な場合
に分かれます。
①ですと,後見人が家庭裁判所により選任され,その後見人が本人の財産管理をすべて行うことになります(日用品の購入くらいはできます)。本人が勝手に財産処分等をした場合には,取消すことができます。
②ですと,本人が法律で定められた法律行為(借入や贈与や不動産の改修等)をするためには,保佐人の同意が必要になり,それがない場合には取消すことができることになります。また,本人に代わって保佐人に特定の法律行為をするための権利(代理権)を与えることも出来ます。
③ですと,法律で定められた法律行為のうち,同意がなければできない行為を審判によって定めることができます。審判で定められなかった行為は,本人は自由にできます。その他,②同様代理権を与えることも出来ます。

本件では,まず精神科等,判断能力について診断のできる医師に診断をしてもらい,果たして①~③のどれに当たり得るかを調べることになります。
既に相当程度認知症が進行しており,Aの認知もできていないことから,既に判断能力は失われており,①の後見の申立をすることが予想されます。
その後,後見人が選任されれば,Xの全ての財産の管理はその後見人がすることになるため,Bから通帳等の管理権を奪うことができ,Xの財産は保全されます。                                                             以上

2014年1月22日 9:17 - カテゴリー: 法律のお話し

法律のお話し① 【 携帯電話と残業代 】

【 携帯電話と残業代 】

■ 従業員に会社の携帯電話を持たせて,休日などの就業時間外にかかってくる電話に対応させている場合,この従業員に対して,就  業時間外の携帯電話を持たせている時間についても,時間外手当(残業代)を支払わなければな らないのでしょうか。

■ この問題では,就業時間外の携帯電話を持たせている時間が,「労働時間」に該当するかが問題となります。
 「労働時間」というのは,労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間のことをいいます。
  そのため,従業員に「就業時間外の携帯電話を持たせている時間」が,労働から解放されておらず,使用者の指 揮命令下におかれているといえるような場合は,「労働時間」に該当し,時間外手当を支払う必要があるということになります。

  従って,単に携帯電話を持たせているだけで,実際に電話がかかってくることが皆無であれば,労働者は場所的にも拘束されておらず,何か具体的な対応をする必要もないことから「就業時間外の携帯電話を持たせている時間」は,労働から解放されており,使用者の指揮命令下におかれていないと評価でき,「労働時間」には該当せず,時間外手当を支払う必要はないということになる可能性が高いと思います。

     しかし,実際にある程度電話がかかってきて,その電話に対してある程度対応が必要にるような場合であれば,電話がかかってくる頻度,電話がかかってきた際の具体的な対応状況等にもよりますが,労働者は労働から解放されておらず,使用者の指揮命令下におかれていると評価され,「労働時間」に該当し,時間外手当を支払わなければならないという可能性は否定できません。

  このようなことから,従業員に携帯電話を持たせて就業時間外の電話対応をしてもらう必要性があまりないような場合は,従業員時間外の電話対応をしなくてもよいということを明らかにしておいた方がよいと思います。
  反対に就業時間外の電話対応をしてもらう具体的な必要性がある場合についても,電話対応が必要な時間帯,かかってきた電話に対する具体的な対応方法など,会社が従業員に求める対応について具体的に規定したり,具体的に指示をしたりしておいた方がよいように思います。そして,それにより従業員にかかる負担の程度に応じた手当等の支払いを行うという態勢も整えておいた方がよいと思います。         以上

2014年1月17日 10:02 - カテゴリー: 法律のお話し
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